
新潟大学医学部医学科 大学院医歯学総合研究科 ウイルス学分野
Department of Virology, Niigata University School of Medicine Faculty of Medicine Graduate School
of Medical and Dental Sciences
B型及びC型肝炎ウイルスに対する複製機構及び病原性発症機序の解析
HCV感染症に対する直接作用型の抗ウイルス剤の開発により、C型慢性肝炎が治療可能な時代になっている。その一方で、ウイルス排除後の肝疾患発症や薬剤耐性株の出現、またワクチン未開発のために再感染のリスクが存在するなどの問題点がある。私達はHCVの感染生活環の理解を通じて、その知見に立脚した治療法開発などの基礎研究を展開しています。具体的には、生化学、免疫学、分子生物学、分子病理学及びバイオインフォマティクスを活用した研究より、HCVの感染生活環に関与する新たな細胞内宿主因子の同定・機能解析などを行っています。また、B型肝炎ウイルス(HBV)のウイルス学的性質の理解に関する研究や、創薬開発研究にも取り組んでいます。これらの研究では、レポーター遺伝子を発現する組換えHBVを活用した創薬ハイスループットスクリーニングや、HBV感染初期過程の解析などを行っています。
【最近の研究の成果】
C型肝炎ウイルス感染によるタイトジャンクションバリア機構の破綻とそのウイルス学的及び病態生理学的意義の解析
細胞間タイトジャンクションのバリア機構は、細胞間隙の物質移動のみならずウイルス感染伝播の制御にも関与しており、その恒常性維持の破綻は肝疾患発症のみならず、多様な疾患の発症(難聴、癌の浸潤、アレルギー疾患、皮膚炎、炎症性腸疾患や糖尿病など)にも繋がる。しかしながら、タイトジャンクションバリアの恒常性維持の破綻に伴う肝疾患発症の分子機構は不明である。私達は最近、肝細胞におけるC型肝炎ウイルス(HCV)の感染伝播の促進に、タイトジャンクションバリア機構の破綻が関与していることを明らかにした(図1を参照)(Abe T, et al. J. Virol 2023)。また、オクルーディンを介した細胞間タイトジャンクションバリア機構の新規制御因子として、アネキシンVとPKCアイソフォームを同定した。興味深いことに、HCV感染によるタイトジャンクションバリア機構の破綻は、DAA処理に伴うウイルス排除後にも持続することが示された(未発表データ)。この様な観点から、HCV感染によるタイトジャンクションバリア機構破綻の不可逆的な持続とウイルス排除後に起こる肝疾患発症との関連性が推察され、この点についてさらに詳細な研究を行っている。関連する研究として、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が、血管内皮細胞のバリア機構を形成するクローディン5(CLDN5)を破綻させることで全身への感染伝播を促進していることが報告されている(Hashimoto R, et al. Sci Advances, 2022)。
参考文献:Abe T, et al. Hepatitis C virus disrupts annexin 5-mediated occluding integrity through downregulation of protein kinase C-alpha and protein kinase C-eta expression, thereby promoting viral propagation. J Virol., 2023, e00655-23.
